【レビュー #71】METAL GEAR SOLID V:THE PHANTOM PAIN(PS4)

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METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAINPS4)』のレビュー。
※ネタバレあり


【レビュー時のプレイ時間】 150h
<総合評価> 4.8 / 5

(項目) 独創性 映像性 音楽性 操作性 熱中度
(評点/5点) 4 5 5 5 5

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良い点
  • 「FOXエンジン」で描写されるグラフィックが美しい。荒涼たる大地、鬱蒼としたジャングル、衣服に付着する血糊、モフモフ感あふれるDDや野生生物の毛並…などのリアルな描写に加え、フレームレートの落ち込みが少なく、全編を通して安定した60fpsに近い動作を維持しているのも特筆すべき。現行機へ世代を移し1080p・60fpsがひとつの指標になっていながらも、その実現に向けた最適化に苦労するデベロッパーが多い中、今作において確実にそれを達成したコジプロの解散が悔やまれる。
  • 動かしていて気持ちの良い操作性。(フレームレートの恩恵もあり)これまでのどの作品よりも動作が滑らかで、アクションの継ぎ目も自然。ダッシュのスピード感や格闘でのスローモーション演出も迫力があり、ボタン一つでサッと隠れられる緊急回避も使いやすい。『MGS4』の時点でもTPSとしての挙動はしっかりとしたものだったが、今作ではそこから更にブラッシュアップされている。この動きで戦える『MGO(3)』が非常に楽しみ。
残念な点
  • 「悪に堕ちる」といったコピーやバイオレンス色の強いトレーラーから、ファンとしてはGZから続くビッグボスによる血塗れの復讐劇を期待していたのだが、今作の実際はビッグボスの影武者(ファントム)として仕立てられたヴェノムによる報復の代行でしかない。今作で私が望んでいた描写は「自分の信念を貫き通す(=忠を尽くす)ためには、仲間の犠牲をも厭わない非情なビックボス」であり、これまで正しくクールに時代を導いてきたソリッドとの対比を際立たせて、サーガに強烈なインパクトを残すヒール(悪役)として君臨して欲しかった。今作のエンディングを見てもいまいちスッキリしないのは、こうしたストレートな期待を“ヴェノム=エイハブ=プレイヤー(アバター)”という構図でかわされた感があるからだろう。長年続いたサーガの幕引きの手法としては「小島監督らしいファンサービスなのかな」といった理解もありながら、やはりビッグボスに対するファンの愛着を覆すほどの激しい表現でメタルギアの歴史を閉じて欲しかったように思う。それでこそ、前作『MGS4』のラストシーンの親子和解の深みが増してくるのではないだろうか。
  • そもそも、今作発表時の「タブーに挑む」「業界を追われるかもしれない」といった監督の大胆な発言の真意はどこにあったのだろうか?完成された今作を最後までプレイする限り、そこまで社会通念を破るほどの描写は無かったように感じられるが…。解析の結果判明した未実装の章の存在や発売直前に勃発したコジプロ解散騒動の影響もあり、当初のプロットから大きな改編があったのではないかと勘ぐってしまう。
  • オープンワールド化したメタルギア(=自由潜入)というコンセプトは概ね成功していると思われるが、フィールドの大半は野生動物が散見される程度の荒野やサバンナであり、偶発的なイベントやクエストも無いため、広さの割には遊びの密度が低い。また、崖を登るクライミングも特定箇所でしか発動せず、ちょっとした段差でも「ズサー」と滑り落ちるスネークを見る度に、発売前に制作サイドから発せられた「見えるところはどこへでも行ける」とするコメントとのギャップに空しくなる。潜入・攻略の自由度で言えばシリーズ最高と言えるものの、オープンワールド作品としての行動可能範囲として考えると、やや物足りない。
  • 『PW』同様に、大量に用意された使用可能な武器のほとんどが殺傷系であるのにも関わらず、様々な面で非殺傷ステルスが推奨される点に矛盾を感じる。さらに、各ミッションの評価項目において最重要視されるのがクリアタイムという点も違和感があり、時間がかかっても誰にも見つからずに目標に到達するよりも、アラートになっても最短距離で突っ込んだ方の評価が高いというのはいかがなものか。それであれば、隠密スタイルでも突撃スタイルでも異なる評価軸で同等の評価がされる柔軟性が欲しかった。(例えば、「誰にも見つからない」ことと「マップ内のすべての敵を殺害する」ことが同評価となるような)
  • 「課金」させることを前提に考えたとしか思えないシステムに嫌悪感を抱く。FOB増設はもちろん、有料のコインを消費しないと長大な日数を必要とする部隊派遣には愕然とした(オフライン派遣は長くとも数時間で済むが、オンライン派遣はリアル時間で2~3日かかる)。こういった手法が昨今の流行りとはいえ、機種は違えど前作の『PW』では当たり前に出来ていたことに制限をかけるのは納得できない。今やコンソール向けゲーム開発はリスクの肥大したビジネスになっていることは承知しながらも、メタルギアのようなコア向けの作品にてこうした要素を安易に盛り込んでくるKONAMIの姿勢には、腹立たしいというよりも発想の乏しさに落胆してしまう。
  • 今作のヴェノム・スネークというキャラクター性か、はたまた有名俳優のキーファー・サザーランドが演じている影響か、従来作と比較してスネークのセリフが圧倒的に少ない。また、今作はリップシンクが英語基準で行われているため、日本語音声と唇の動きが合っていないのも残念。

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総評

各項目で高評価を付けながら、残念な点を数多く挙げたのもメタルギアという作品への思い入れから。
各所のユーザーレビューにてストーリーにまつわる部分で不満が多いのも、熱心にシリーズの歴史を考察し、矛盾の無い展開を望むファンが多いからこそだろう。

しかしながら、ステルスアクションゲームとしては文句無く面白いし、国内でこれだけのクオリティのタイトルを作り上げることができるチームはそう多くない。
メタルギアと聞くと難しいゲームというイメージを抱く方もいるかもしれないが、今作はリフレックスモードや優秀なバディの存在をはじめ、広大なオープンワールドという環境を生かし、追い詰められたらとにかく逃げるという戦法でも危機を脱せられるので、シリーズ初挑戦のプレイヤーもぜひ遊んでみてもらいたい。
(むしろ、ストーリーへのこだわりがニュートラルな分、新規プレイヤーの方がよりゲームとして楽しめるかも)

長年待ち望んでいた作品として存分に楽しませてもらったのだが、制作サイド内での問題や提示されたエンディングの内容から、何となく遣り切れない思いを抱いているのも事実。

小島監督メタルギアに幸あらんことを。